マーケティング4.0とコトラーの5A理論からのマーケティング5.0
- 増井 光生
-
- #DX
- #Webマーケティング
マーケティングの進化は、企業の戦略に大きな影響を与えてきました。
「速すぎる時代の流れについていけない」と悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。
今回はフィリップ・コトラー氏が提唱した「マーケティング4.0」と「5A理論」について解説していきますのでぜひご参考になさってください。
その後で「マーケティング5.0」についても触れていきたいと思います。
マーケティング4.0とは
マーケティング4.0とは、デジタル技術の進化とともに登場した「消費者の自己実現」に寄り添ったマーケティングの考え方です。
個人での発信の機会が増えたことで、ソーシャルメディアでの自己実現、パーソナライズされたアプローチなど、さまざまな要素を取り入れています。
この時点でよくわからないですが、追って説明しますので、ご安心ください。
とりあえず「自己実現に寄り添ったマーケティング」と思っていただけると幸いです。
マーケティング1.0から4.0への変遷
マーケティング4.0については、一旦上記の「自己実現に寄り添ったマーケティング」という意味で構いません。
4.0になるまでのプロセスを挟ませてくれますと幸いです。
※徐々に広まっていくものなので年代は目安です。
マーケティング1.0(1900〜1960年代):製品中心の時代
マーケティング1.0では、主に製品中心のアプローチを取っていました。
第二次産業革命により、良い製品を大量に生産してコストを抑え、そして大量に販売することが重視されました。
消費者のニーズに寄り添うというよりも「いいものは自然と勝手によく売れる」という風潮で、製品そのものの優位性を重視しており、製品の機能や品質に焦点を当てていた時代です。
1960年に誕生した「4P分析」は、まさに製品中心の象徴と言えるのではないでしょうか。
4P分析
- Product(商品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販促)
マーケティング2.0(1970年代〜1980年代後半):消費者中心の時代
マーケティング2.0では、消費者中心のアプローチへと変わっていきました。
この時代で企業は、消費者のニーズに応じた製品やサービスを提供することに重点を置くようになってきます。その背景には、製品が家庭に出回り、似たような商品が生まれてきたため「消費者が何を求めているか」を考える必要があったのです。
そこで、市場調査や顧客データの分析を重要視し、消費者・顧客の満足度を高めるための戦略が求められました。
「SWOT分析」「STP分析」「5F(ファイブフォース)分析」などの言葉も大量生産された時代です。
SWOT分析
- 強み(Strength:内的要因でのプラス面)
- 弱み(Weakness:内的要因でのマイナス面)
- 機会(Opportunity:外的要因でのプラス面)
- 脅威(Threat:外的要因でのマイナス面)
STP分析
- Segmentation(セグメンテーション)
- Targeting(ターゲティング)
- Positioning(ポジショニング)
5F分析
- 競合他社の脅威
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
マーケティング3.0(1990年代〜2010年代前半):価値観中心の時代
インターネットの普及・拡大により誕生したのがマーケティング3.0です。
市場がデジタルに移行しただけでなく、情報社会になったことで、消費者や顧客が企業の理念や価値観を見ることができるようになりました。
同時に、世界中の情報にアクセスできるようになったことで、世界が抱える問題についても情報が広まりました。
環境保護などの社会的な問題解決への取り組みや理念、CSR(社会的責任)が消費者から重視され始めました。山口周氏の著書「クリティカル・ビジネス・パラダイム:社会運動とビジネスの交わるところ」などでも同様の指摘がなされています。
この頃はどちらかというと不祥事を起こした時の「炎上」や「不買運動」のようなネガティブなイメージの方が強いかもしれませんが、簡単に言えば「企業の理念や活動に共感できたらファン化する」傾向が出始めたのです。
SDGsという言葉ができたのも、ちょうど2010年代の真ん中の2015年ですが、それはおそらく偶然です。ただ、SDGsによって企業としての活動がわかりやすくなった感じはします。
マーケティングの動向としては「マーケティングファネル」「カスタマージャーニー」という言葉がはやり「7P分析」「AIDMAの法則」などが新たなフレームワークとして誕生しました。
7P分析
上記4P分析に加え、
- People(人)
- Process(販売までの過程)
- Physical Evidence(製品の物的証拠)
AIDMAの法則
- Attend(注意)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
AIDMA(アイドマ)とは、消費者が商品やサービスに対してどのような心理過程を経て興味を持ち、最終的に購入に至るまでの道筋を示すものです。
AISASの法則
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Search(検索)
- Action(行動)
- Share(共有)
AISAS(アイサス)とは、インターネットの普及により、従来の購買行動プロセスが変化したことを踏まえて、提唱された上記のような消費者行動です。ここまでくれば、もうほぼマーケティング4.0に近い概念です。
関連記事:ウェブアクセシビリティ対応の義務化?ユーザビリティとの違いも解説
マーケティング4.0(2010年代後半~):自分中心の時代
インターネットが自己実現の場になったことで発生したのがマーケティング4.0です。
2010年代後半では、インターネットの更なる発展やソーシャルメディアの普及、DEIB(多様性、公平性、包括性、帰属性)の波及もあって、自分を発信する機会が増えました。
自分を発信する消費者が増えたことで、消費者同士の共感によるつながりが強化され、情報収集や購買行動も大きく変化しています。
このことでインフルエンサーマーケティングやCtoC(PtoP)、UGC(ユーザー生成コンテンツ)という新たな手法が発生しました。
マーケティング3.0の時の「企業の理念や活動に共感できたらファン化する」傾向がより強く、ポジティブな意味でも成り立つようになってきました。いわゆる「イミ消費」「エモ消費」「推し活」などです。
関連記事:【月額5万】インフルエンサー使いたい放題「トリドリ」とは?
企業の活動や理念に共感した消費者が、自己発信により他の消費者へ情報を届けるという市場になりつつあります。
いきなり「自己実現に寄り添ったマーケティング」と言っても、意味がわかりにくいと思ったので時系列で説明いたしました。
5A理論とは
5A理論は、マーケティング4.0での消費者の購買行動を5つのステップに分解し、各ステップでの戦略を明確にするためのフレームワークで、以下の5つのAから成り立ちます。
- Aware(認知)
- Appeal(魅了)
- Ask(質問)
- Act(行動)
- Advocate(推奨)
日本語の訳し方は色々あるかもしれませんが、上記の5要素から成り立ちます。
従来のマーケティングでは「ものを売る」が1つのゴールでしたが、5A理論ではそのさらに先のAdvocate(推奨)まで見据えているところが一番の特徴です。
Aware(認知)
顧客がブランドや商品を認識する段階です。
この段階では、広告やプロモーションを通じてブランド認知を高めるという意味では従来の認知拡大とあまり変わりませんが、顧客が別の顧客から認識するという新しいパターンが追加されました。
Appeal(魅了)
わざわざ日本語訳しなくても、普通にアピールって言ってた方がわかりやすかった感じは否めないですが、顧客が魅力を感じる段階です。
商品やサービスだけではなく、企業そのものや発信した人の魅力も求められます。
Ask(質問)
顧客がブランドや商品についてさらに情報を求める段階です。
情報を求める先が、企業とは限らない点に注意が必要ですが、なるべく自社のSNSやホームページを通じて詳細な情報を提供し、顧客の疑問に答えることが重要です。
特にSNSの場合はありきたりな答えではなく、あくまで個人に寄り添った、パーソナライズされた回答が求められます。
Act(行動)
顧客が実際に商品を購入する段階です。ここでゴールと思ってはいけません。次のステップが重要だからです。
Advocate(推奨)
顧客がブランドや商品を他の顧客に推奨する段階です。
満足した顧客は、口コミやレビュー、SNSでのシェアを通じてブランドを支持し、それを見た別の新たな顧客を引きつけてくれます。
フィリップ・コトラー
フィリップ・コトラー氏は「マーケティングの神様」「近代マーケティングの父」と称され、世界中のマーケターに多大な影響を与えています。
コトラー氏の魅力は多岐に渡りますが、よく言われるのは下記のようなことです。
- 先見性:コトラー氏は、常に時代の先を読み、マーケティングの未来を予測してきました。社会の変化を敏感に察知し、新しい概念や手法を提唱することで、マーケティングの進化を牽引してきました。
- 洞察力:彼の著作は、マーケティングの本質を鋭く捉え、複雑な概念をわかりやすく解説することで、多くの読者を魅了しています。初心者からベテランまで、あらゆるレベルのマーケターにとって必読書と言えるでしょう。
- 情熱:コトラー氏は、マーケティングに対する情熱を失うことなく、長年にわたり教育、研究、コンサルティング活動に精力的に取り組んできました。その情熱は、多くの学生やビジネスパーソンにインスピレーションを与えています。
コトラー氏の実際の功績も多岐に渡るので一部抜粋すると、下記のようなものがあります。
- マーケティングの定義の普及:マーケティングの概念を明確化し、広く普及させた功績は計り知れません。コトラー氏の定義が、現代マーケティングの基礎となっています。
- マーケティングミックスの提唱:製品、価格、流通、プロモーションの4Pから始まるマーケティングミックスは、マーケティング戦略立案のフレームワークとして、世界中の企業で活用されており、今ではマーケティングミックスモデリングという言葉さえあるほどです。
- ソーシャルマーケティングの提唱:社会問題解決のためのマーケティング手法であるソーシャルマーケティングを提唱し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
コトラー氏の名言
- 「マーケティングとは、顧客のニーズを満たし、顧客との関係を構築することによって、企業の目標を達成するプロセスである。」
- 「良いマーケティングとは、製品を売ることではなく、顧客の問題を解決することである。」
- 「マーケティングは、創造性と分析力を必要とする芸術であり、科学でもある。」
フィリップ・コトラー氏は、マーケティングの理論と実践の両面において、多大な貢献をしてきました。彼の思想は、時代を超えてマーケターを導き、ビジネスの世界に革新をもたらし続けています。
これからのマーケティング5.0
マーケティングは、時代の変化に伴い進化してきました。
マーケティング1.0では「製品」に焦点が当てられ、2.0では「消費者のニーズ」、3.0では「社会貢献」が強調されました。そして上述の通り2016年ごろからは、「自己実現」に対応するマーケティング4.0が登場しています。
そして2021年(日本で出版されたのは2022年4月)、マーケティング5.0が台頭し、AIやビッグデータなどの最新技術を活用して顧客体験の向上を目指す新しいマーケティングの時代に突入しました。
今回は、マーケティング5.0の具体的な特徴と、その進化について詳しく解説していきます。
マーケティング5.0とは
マーケティング5.0とは、フィリップ・コトラーによって提唱された、デジタル時代における人間中心のマーケティングの考え方です。
最新のテクノロジーを駆使するだけでなく、人間とテクノロジーの融合させることで、顧客体験価値(CX)を最大化することを重視しています。
マーケティング5.0の5つの主要な要素
マーケティング5.0は、デジタル技術と人間らしさを融合させ、顧客体験を進化させるための5つの主要な要素で構成されています。
データドリブンとアジャイルはベースとなるようなもので、予測・コンテクスチュアル・拡張はツール的なものです。
データドリブンマーケティング
ビッグデータを活用し、顧客の行動や購買履歴などを分析することで、ターゲティング精度を高め、パーソナライズされたメッセージを最適なタイミングで届けます。
もはやターゲティングというよりはパーソナライズされたマーケティング戦略を展開するようなイメージです。
アジャイルマーケティング
変化する市場環境に素早く対応するために、小規模なテストマーケティングを繰り返し、戦略を迅速に改善します。元々はシステム開発での「アジャイル開発」から来た言葉ですが、市場の変化に合わせて柔軟に方向転換できる、俊敏な手法としてマーケティングにも応用されるようになってきました。
予測マーケティング
AIを活用し、未来の顧客行動や市場の変動を予測します。
キャンペーンなどの結果を事前にシミュレーションすることで、リソースを効率的に活用しながら効果的なマーケティング活動を展開できます。
コンテクスチュアルマーケティング
顧客の現在の状況や行動に基づいて、リアルタイムで適切なメッセージを提供します。
顧客一人ひとりの状況に合わせた最適な体験を提供することで、より深いエンゲージメントを生み出します。
関連記事:コンテクスチュアルマーケティングとは?わかりやすく簡単に解説
拡張マーケティング
チャットボットやバーチャルアシスタントなどを活用し、顧客対応を自動化しつつ、温かみのある対応を実現します。
24時間いつでも迅速かつ効率的な対応が可能となり、顧客満足度を高めます。
社会的課題の解決にも貢献
マーケティング5.0は、デジタルディバイド(技術格差)や世代間ギャップ、富の二極化など、現代社会が抱える課題に対しても有効な解決策を提供します。
AIやロボティクスを活用することで、幅広い層にアプローチし、マーケティング戦略を精密に調整することが可能になります。企業は顧客体験を最適化しながら、社会的課題の解決にも貢献できます。
まとめ
マーケティング5.0は、AIやビッグデータを活用し、顧客に対してより深い価値を提供する新しいマーケティング手法です。
デジタルとリアルの融合、パーソナライズされた体験、自動化を通じて、顧客満足度を向上させ、ビジネスの成長を加速させることができます。
マーケティング5.0を活用することで、より強固な顧客基盤を築き、持続的な成長に向けた舵取りができるかもしれません。
マーケティング5.0、マネジメント2.0、HR3.0などなど変化が多くて大変ですが、この変革の波に乗り遅れないよう、積極的に取り組みたいものです。